劉面煥さんのことを書く。日本軍から性暴力の被害を受けた、あの老婆のことを。
劉面煥さんと奥村和一さん。一見何の接点もない2人だが、じつは劉さんも戦後補償をめぐって日本政府と係争中だった。そして奥村さんはその裁判を欠かさず傍聴していた。
さらに奥村さんは劉さんのような性暴力の被害者に対し一度ならず支援を行っていた。このようなお婆さんたちは若いときの無理がたたって体を壊されている方が多い。質素な年金暮らしの奥村さんだが、山西省を旅する際には、必ずここに10万、あそこに10万、と少なくない額のお金を寄付していた。
こうして実現した2人の対面だが、じつは劉さんは体調を崩されていて撮影の3日前まで入院していた。あるいは元日本兵と会うことのプレッシャーが体に異変を生じさせたのかもしれない。僕は撮影を諦めかけていた。だが劉さんは、「行きます。それが私の使命です」とおっしゃってくれた。
淡々とした表情ですさまじい被害を語る劉面煥さん。最後その劉さんが「赦し」を与えるかのように奥村さんに語りかける。けっして日本軍の蛮行を赦したわけではない。だが目の前にいる元日本兵も覚悟をもって戦争を語り継ぐことを使命としている。劉さんにはそれがわかったのではないだろうか。 池谷薫Facebook
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