発売中の週刊文春WOMANに「蟻の兵隊」のことが触れられている。公文書の改ざんをめぐる森友訴訟で実名を明かして国を提訴した赤木雅子さんが「蟻の兵隊」を観てくださったのだ。雅子さんは、改ざんを命じられて自ら命を絶った夫俊夫さんの姿を山西残留兵士に重ね合わせてこう述べている。
「『蟻の兵隊』もそうですけど、昔から偉い人が先に逃げて、現場の人が取り残される。そんなん、ずるいって言うか、卑怯でしょ? 恥ずかしくないんかな」
夏の全国ツアーで、僕はなぜいま「蟻の兵隊」なのかを語る際に必ず雅子さんのことに触れ、森友訴訟に関心を持ってほしいと訴えつづけた。それは、国家という平気で嘘をつく化け物に対して、雅子さんが夫の名誉を守ろうとする個人の尊厳をかけた闘いを挑んでいるからだ。その姿は戦後も戦争を続けさせられ山西の荒野にむ骸(むくろ)をさらすことになりながら逃亡兵の汚名を着せられた戦友たちの名誉を守るために、残留問題の真相究明に後半生を捧げた奥村和一さんの姿にぴたりと重なる。
雅子さんは続ける。「私は卑怯なことは嫌いです。そうはなりたくない。少なくとも自分は卑怯な生き方はしたくない。だから裁判を起こしたんです、だから再調査を求めているんです」
奥村さんたちが起こした裁判は孤立無援の闘いだった。だから裁く気のない裁判に終始して事実の認定さえ勝ち取ることができなかった。森友の裁判をけしてそのようにしてはならない。そのためには、司法に対して我々国民がこの裁判を注視しているという強い姿勢を示しつづけるしかあるまい。
奥村さんの真っすぐな生き方が少しでも雅子さんに勇気を与えることができたなら幸いである。 池谷薫Facebook